イスラム文化を知る 2
〜イスラムの戒律と経済〜
 
 イスラム教徒の生活には、その信仰の基本である「イスラムの5柱」と呼ばれる5つの実践がある。?神の唯一性とムハンマドが最後の予言者であるということに対する信仰、?毎日の規則にかなった礼拝、?貧しい者への施し、?断食によって自己を清める行為、?肉体的・金銭的に可能な者がメッカへ巡礼すること―の5つ。またこ
のほかにも、コーラン(イスラムの教典)は公正な社会を築くためのさまざまなガイドラインを定めている。
 世界人口の約5分の1を占め、地理的にも大きな広がりを持つ教徒たち。各国によって文化は違っても、イスラム社会は、その根底において教義と信仰心とで深く結びついている。
 「イスラム文化を知る」2回目の今回は、その戒律とイスラム諸国の経済の価値観
とのかかわりについて、2人の信者に語ってもらった。
   イスラム諸国の経済観念と、欧米諸国の資本主義的経済観念とはやがて衝突するだろうと長年言われている。これら2つの経済の決定的な違いとは何か。イスラムの側からその見解を述べてもらった。
 ベイエリア在住のインド系米国人オマール・アサッドさん(31)とサウジアラビア系米国人シエダ・アリさん(29)は、「資本主義の基本目的とは『取得すること』『蓄積すること』などにあるが、イスラムの世界では『取得し、そして分け与えること』にある」と答える。
 イスラム社会は、「公平」「相互扶助」などを基軸とした思想や経済価値観を持っているため、「富める者と貧しい者との分け隔てをつくらず、万人が衣食住を確保し、信仰を貫く権利を持っている」。そのため、「資金のある者がない者に対し、資産を分け与えることが当然のこととされている」(アリさん)。
 
 

年収の一定利率を喜捨
 「ザカート」とはアラビア語で「清め」「成長」を意味する。これは、先に述べた
イスラム5律のうちの1つで、貧しい者への施しを指す。イスラム教徒は、戒律で定められた義務として、毎年年収の約2.5%を喜捨するが、たいてい年に一度のラマダン(断食月)明け祝宴の際などに資金や穀物によって持ち寄られる。年収からの一定利率の計算は、自己申告による。
 これは、人間が持つ財産は、すべて「神からの信託」という思想に基づくもので、貧しい者への施しによって財産が清められ、将来的にさらなる成長をもたらすのだと信じられているため。つまり、信者は「ザカート」を行うことによって「浄化」されるのだという。言葉の意味はここに由来している。
 「私にとって、裕福なものがより裕福に、貧しい者がより貧しくといった資本主義の発想は、イスラム世界にはもともと存在しなかったもので、あえていうなら存在し得ない概念だと思っている」と、アリさん。

 
  「利息」のない社会
 アサッドさんは、さらに、イスラム独自の金融システムである「無利子金融」の存在を例に挙げた。コーランは「リバー(利息)」の取得を禁じている。アラビア語で
もともと「増殖」を意味するこの言葉は、一般的に「高利貸し」などと解釈され、やがて「利息」を意味するようになった。
 イスラム文化圈には、通常の銀行システムとともにイスラム金融というシステムが存在する。1970年から80年代にかけての政治運動に伴って台頭したもので、その経済
思想に基づいて運営される利息のない“イスラム銀行”は現在、エジプト、スーダン、クウェート、インド、パキスタン、インドネシア、マレーシアなど、世界75カ国以上
に広がっている。
 利息の発生が、富める者と貧しい者との差をさらに大きくすると捉えられるイスラムの教え。資本主義経済下とは異なった「無利子金融」によって運営されるこれらイ
スラム銀行の存在は、イスラム文化圈の思想を反映する要素の一つだ。
 ただし無利子とは言っても、預金者が配当を受け取る投資信託方式などが活用され、利子は発生しないが、資金を提供したことによる利潤の配分は行われる、といった方
法が多くとられている。
 「イスラム社会では、資金のある者がない者に対し、利子で儲けるといった常識がない。分かりやすく言えば、そのかわりに資産を貸し与えて事業を応援することにな
る」と、アリさん。
 この相互扶助の精神と公平な社会への意識は、前号に述べたラマダンの基本目的の1つにも現れている。日のある間は食物や水を口にせず、その試練によって世界中にいる信者や飢えに苦しむ人々との連帯感を養う。
 アサッドさんもまた、資本主義の考え方は、平等と博愛を重んじるイスラムの経済思想とは食い違うと考えている。さらに、「水や石油などのエネルギー源は、もともとは自然の産物であり、公共の所有物。それらは私物になりえず、共同に使うべきもの。企業が仲介し、売りに出すというシステムには疑問を感じる」との意見も述べる。
 しかし、アサッドさんは、グローバル化が進む現在、イスラム社会は変動期にあると感じているという。「資本主義の概念がイスラム社会に浸透し、体制が変わりつつある。一部のイスラム社会における犯罪や麻薬汚染の増加は、こういった混乱した状況が生み出したものではないかと考えています」

【宮田麻紀】